ペーパースカイ【完結】
〈5〉輪子:シュガーレス・キス・イン・ザ・カー
「どっか行きたいとこある?」

信号待ちの車の中。

陽司は横顔で、努めて明るく私に尋ねた。

「カラオケ?ビリヤード?あ、それともDVDレンタルして、俺んちで観ようか」

せわしなく動くワイパーにさらさら、波のように流される雨の動きを見つめながら

「別に、どこでもいいよ」

私は助手席で、ぽつりと答えた。

何か言いたげに陽司が私の顔を見た、瞬間。

「あ、青だよ」

ぼんやりとにじんだ青の信号機にすら、邪魔をされているみたい。

今日は水曜日。

学校帰りの道の途中で、陽司が私を待っていた。

「日曜日、会えなかったからさ」

半月以上も会っていなかった、会いたかった人が待っていてくれたのに。

私は素直に喜べなかった。

すぐに笑顔には、なれなかった。

「ごめんね輪子。……やっぱり、怒ってる?」

車を走らせながら、素直で優しい彼は言う。

「…怒ってるってわけじゃないけど……なんか勝手なんだもん、陽司。

会う約束してる日はドタキャンするくせに、約束してない日に急に会いに来

るなんて」

「……………」
< 21 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop