ペーパースカイ【完結】
「輪子ちゃんてさ、ナンパとかされた事ある?」


「え?…ううん、ないよ」

…てゆうか。てゆうか…。


「ふーん。あたしが男の子なら、絶対声かけちゃうけどなあ!

それか、ふらふらーって、ついてっちゃうかも♪」

てゆうかだから。アナタ、今、してんじゃん、私に。

「絶対かわいいからナンパされるよーいつか!!」

いやいや、だから。これって、あなたが、完全に、私を、ナンパ…


「そんでね?すっごく仲良しになってねー……

いつの日か、首をかじらせてもらうの~!」

「は?かじ…?」


あまりにも突飛なその発言に、私だけでなく廊下中の顔が

いっせいに振り向くと、苺はさすがにびっくりしたように

茶色い丸い目を大きく見開いて


「あ、あれ…?」


と、慌てたようにぽつりとつぶやいた。

そして、そのくせ何もおかしな事を言ったつもりなんかない顔のまま、


「………ダメ、かな………?」


ばかばかしいほどシリアスな様子で、私の顔を見つめたのだった。


それ以来、廊下ですれ違う時や、合同授業のたび、

苺はいつでもニコニコとご機嫌な様子で、うれしそうに私のそばに寄ってきた。

なんというか「恋」みたいに。

あるいは、「すりこみ」のように。


そして、私はそれが自分でも不思議なくらい、嫌ではなかった。
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