ペーパースカイ【完結】
単純に、飲んで騒ぐという行為が今の自分にはできないだろうというのもあるし、

なるべくこれから家の事は、私がやるようにしたかった。

お父さんが家に帰って来る時間までに、ちゃんと明かりをつけて、ご飯を作って、

お風呂を沸かしておいてあげたかった。

それは自分のためでもあった。

家事をしている時は、無心になれるから。

一人であの家にいても、よけいな事を考えずに済む。

一哉は、いいヤツだ。

そして、たぶん私の事を好いてくれているんだと思う。

それは、しぐさや視線、ちょっとした些細な言動を見ていれば、よくわかる。

私は、ずっと気づかないふりをしているけれど。

何の根拠もなく、思いあがっているつもりは、ない。

「おんな」という生き物に生まれた人なら誰にでも、そういう

「ちょっとした勘のするどさ」

って備わっているものだと思う。

そしてそんな「するどさ」は、自分だけでなく

女なら誰でも持っているものだという事にも、気づいているはずだ。

一哉の声を聞きたくないわけではないけど、

まだお母さんが亡くなったダメージから抜け出せないでいる自分を、

声だけで見破られてしまうような気がして、

そうしたら、蓋をしている全ての感情が、一気に溢れてしまいそうで

なんとなく怖いんだ。
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