ペーパースカイ【完結】
もたれた建物の壁をズルズル伝って、幸太がしゃがみ込む。

つられて、あたしもしゃがみ込む。

「輪子は…もう十年近く前から、あたしの一番大事な子なんだもん…」

「…んじゃ、俺は?」

「え?」

「…俺とか、俺との約束は?大事じゃねーの?」

「そんなわけ、ないじゃん!!今日のデートだって、ものすごく楽しみにしてたもん!

……でも…」

 「『緊急事態だから、デートはドタキャンしたい。』って?」

私が言うより早く、うつむいたまま幸太が言った。

「……ごめんね、幸太……」

「………………………」

イライラを通り越して、ついに黙り込んでしまった。

あたしとのデートを、ほんとに楽しみにしてくれてたんだね。

あたしは両手を伸ばして、そっと幸太の頭を抱えた。

茶色くて柔らかい、幸太の髪の香り。

すごく、いとしい。
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