金色の師弟
アデルはすぐにルイへ視線を向けた。
アデルに婚約者がいたことはルイも知っていた。
だが、それが形だけであるとは話したことはないし、現に今アデルがノルンと仲睦まじく話をしていた姿を見られている。
アデルはルイに、妙な誤解を与えたくはなかった。
ルイは驚きに言葉も出ない様子で、ただライラを見つめている。
「あ、そうなんです、か……」
しばらくしてようやく言葉を発すると、ルイは複雑そうな笑顔を浮かべてアデルを見上げた。
「それならそうと言ってくれればよかったじゃないですか」
いつもの晴天のような笑顔とはかけ離れた、無理に作られた堅い笑顔に、アデルは心臓を鷲掴みにされたような気がした。
ルイに誤解されたという事実に、どうしていいかわからなくなる。
まさか今、ライラもいる前で形だけの婚約だなどと口に出来ない。
それに、アデルがそのようなことを口にすれば、それはルイへの好意を明らかにするようなものである。
「これ以上お邪魔するわけにはいきませんし、失礼しますね」
軽く頭を下げ、背中を向けてルイは走り去っていく。
薄く笑ったライラもその後に続いた。
アデルは表情を変えることはせずにライラの背中を見つめ、胸の奥で唇を噛んだ。
(完全にやられたな……)
頭がいい、というエルクの評価に納得しながら、アデルは頭を抱えるように髪を掻き上げた。