金色の師弟
暗闇の中だから平時よりも視界が狭いことは事実であるが、戦場に出る身としては背後に近づいた人間に気付けぬということはありえない。
つまりその男は、あえて気配を消して特訓中のルイの背に立ったのだ。
それも、かなり本気で気配を消していたということになる。
「ア、アデルさん……!驚かせないでくださいよ」
「いいや、まず驚くほどに接近を許すな。お前、実力は十分だが少し隙が多い」
「アデルさんが気配もなく近付くからです!」
「馬鹿言え。戦場で不意打ちを狙うなら、気配を消すに決まっているだろ」
「う……」
木を背中に振り返ると、ルイは師匠であるアデルを仰ぐ。
アデルもルイと同じく、右肩に赤茶色の肩当てを付けているが、胸の鎧はない。
過度な装飾をすれば歩くだけで音が鳴るため、彼は鎧も好まない。
アデルの服装は見た目も静かなものであった。
サイドに腰までスリットの入った黒紫の衣装は膝裏まであり、腰にはベルトが巻かれている。
膝まであるブーツは足音が消えるものを選んだという。
アデルは呆れた様子でため息をつき、肩を竦めた。
「今度は気配の消し方と察し方を教えればいいのか?」
「教えてくださるのですか?」
アデルはからかうつもりで言ったのだが、ルイが目を輝かせて自分を見上げるものだから、堪え切れずに吹き出した。