金色の師弟
部屋を囲むように設置された背の高い本棚には、厚く時代を感じさせる本達が隙間無く詰められている。
部屋の中心には大の男が腕を広げても余りがあるだろう巨大な机が置かれている。
机の上にインクとペンを置き、イアンは一人山積みの紙へとペンを滑らせていた。
左手側から書類を取り、処理が出来れば右側へと積み上げる。
現在、左右の比率は三対七となっていた。
突然、執務室の扉を叩く音が響いた。
「イアン様、職務中失礼いたします」
「どうぞ、入って」
堅く響いた兵士の声に、見えないとわかっていながらイアンは微笑んで頷いた。
鎧を鳴らしながら扉を開けた兵士は、部屋の入り口で片膝を付き頭を下げると、よく通る声で用件を述べた。
「ライラ殿が戻られました」
兵士の報告に、イアンは思わず立ち上がっていた。
二ヵ月前、ライラは単独デモンドへと潜入した。
気になるところがあり調べたいと言う彼を、止められる者はいなかった。
デモンドが何を企んでいるかわからない以上、情報は欲しい。
だが、危険過ぎる。