金色の師弟
アデルは、メルディ王国の兵士ではない。
メルディ王国と親しい隣国のシェーダ王国の弓兵である。
弓使いとしての実力は大陸中に知れ渡っており、本人の露のように滑らかな黒髪から《漆黒の風》と呼ばれている。
普段は結んであるその黒髪は下ろされており、肩に掛かっていた。
気配を消すことにも長けており、夜の戦場ではその姿を捕らえる事は出来ない。
周囲の闇の中、どこからともなく現れる矢は、獲物を狙う肉食獣のように獰猛で鋭い。
まさに、脅威である。
まだ二十五という若さながら、恐ろしい若者だ。
だが、その恐ろしい若者も弟子には些か甘い。
「何で笑うのですか」
「いや、すまん。あまりにも素直なものだから驚いた」
アデルは微笑を浮かべたまま、ルイの頭をぽんぽんと撫でる。
その手を見つめ、ルイは不思議そうに首を傾げた。
「驚くことではないと思います。だって、私はまだまだ未熟ですから、アデルさんに学ぶことは沢山あるんですよ」
実力も才能もあり、努力も惜しまないこの少女は、謙虚で貪欲だ。
そこを気に入ったアデルが弓を教えたため、本来よりも速いスピードでルイは頭角を現していった。