金色の師弟
そう、アデルがメルディ軍へと寝返ったとしたら……。
そうなれば、情報収集能力に特化したノルンがアデルの元にいるのは脅威となる。
ノルンがシェーダ軍下にいるのならば、人質などという手段は選ばなくても、命令として従わせることが出来る。
だが、軍から離れてしまえば命令に効果はなく、引き戻すには違う手段を用いなければならない。
その可能性としてあるものが、タクトという人質。
ノルンは俯いたまま、弱々しい声を絞りだした。
「アデルは……エルク様を見捨てるつもりなの?」
そんなことはないと信じて、ノルンは問う。
アデルは苦しげに眉をしかめ、ノルンの頭から手を離した。
「内側が駄目なら、外側から叩くまでだ」
「やっぱり、メルディに……」
「どこにいようと、俺の主はエルク王だ」
顔を上げたノルンは、言葉を失った。
今にも泣きだしそうな顔で、アデルが弱々しく首を振っていたからだ。
「例えエルク様に弓を引くことになっても、俺は、あの方を止めなければならない……」
どうして、彼ばかりが苦しむのだろうか。
ノルンがそう思わずにはいられないほどに、アデルの声は悲痛さに震えていた。