金色の師弟

他者を信用出来ず、親しい者は巻き込みたくない。
だからアデルは、人を利用することに慣れていったのだ。
皮肉な話だ。

「俺はただの臆病者だ」

重なり合った手を離し、アデルはルイの身体を抱き締めた。
自分のものとは思えない震える声。
誰にも、エルクにさえも言えなかった本音が零れる。

「人を信じて裏切られることが怖い。信じた人に迷惑が掛かることが怖い。だから、人を惑わしていた」

アデルの胸の中でルイは頷く。
ルイの動きを肌に感じて、話を聞いてもらえていることに安堵していた。

「俺は他者を駒として見ている。信用出来ない人間を利用し、それをエルク様のためだと正当化し続けた」

ルイは黙って頷いた。
アデルは間違っていないと口にしたかった。
主君のためにと言いながらも、アデルは自分が他者を利用していることから逃げているようには思えなかったから。

「今も俺は戦争を止め、エルク様を救う方法を考えている。……そのためには、騎士団長を筆頭に数名の大臣の首が必要だとわかっていながらも、俺はそれをしようとしている」

騎士団長には、デモンドと協力しているという話があるため逃がすつもりはないが、大臣の中には無罪の者もいる。
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