金色の師弟

アデルとルイが再会を喜ぶよりも少し前。
酒場でアデルの背を見送ったノルンは、曇天の下を同じく曇った心と共に歩いていた。

アデルに頼まれ情報を集めていた際に、民の声も多く聞いた。
増税により自身の生活もままならないと嘆く者。
お金欲しさに、自分の娘を身売りする者。
盗みや強奪に手を染める者。

病はまだ地方に留まり王都を侵食することは出来ていないが、それも時間の問題だろう。

(シェーダ国は、傾き始めた……)

ノルンが心を痛めるのは、国に左右される民たちである。
人はどこでも生きていける。
国ではなく民を救うために、ノルンは立ち上がりたかった。

だが、ノルンの決意をいとも簡単にアデルは踏み潰した。
片恋の相手の命。
自分の命ならいくらでも掛けてみせる。
だが、愛しい相手に害を加えられることは望むところではなかった。
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