金色の師弟

「ノルン様?」

男性にしては高めで頼り無さげな声に、ノルンは慌てて振り返った。
声の主は今まさにノルンが想いを馳せていた相手、タクト。
彼は両手いっぱいの花を抱え、花にも負けない鮮やかな笑顔を浮かべた。

「お久しぶりですね。お元気でしたか?」

「えぇ。貴方は?」

「私も元気にやっていますよ」

くりっとした青い瞳を細め、タクトは清潔感のある桜色の髪を揺らした。
タクトの姿を見ただけで、胸は高鳴り喜びで満ちる。
こんなにも好きなのに、伝えられない自分の臆病さが哀しかった。

タクトは店へ帰る途中だったらしく、ノルンは彼の隣を歩き店へ寄っていくことにした。

「……メルディ軍との戦争が始まったようですが、ノルン様も出兵するのですか?」

「私は……まだわからないわ」

安心して息を吐いたタクトは、言いにくそうに口を開いた。

「最近は王都も活気が失われつつあります」

「えぇ……」

「早く戦争が終わればいいと思いますが……」

タクトは足を止めた。
気付かずに数歩進み、ノルンは振り返る。
泣きそうな顔で笑ったタクトは、微かに顔を俯けた。
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