金色の師弟
直接的に関わることが少ないため、エルクはあまりデモンドという国を把握していない。
エルクは振り返り、くせのない黒髪を掻き上げだ。
「嫌な感じがするな。アデル、何か知っているか?」
「詳しくはあまり。ただ、デモンドの王弟は今年で二十歳となりますね」
その言葉で、エルクは目を丸くする。
商業国ということもあり、オネストとの交流は少なくない。
書状の内容を詳しくは知らないが、王弟がミーナを気に入った可能性はないとはいえない。
エルクは目を閉じて、しばらく黙り込む。
そして、目を開くと先程の怒りを沈めた静かな瞳でアデルを見つめた。
「今はまず、軍の整備からだ」
「はい」
アデルは頭を下げながら、思う。
やはり、エルクは自分に厳しい方だと。
エルクは一瞬だけ戸惑うように視線を外し、再び口を開いた。
「また再びオネストに出兵する際は、アデルに行ってもらう。……ミーナを、頼む」
一層深く頭を下げるアデルを見つめ、エルクは胸を痛めた。
王女という運命に翻弄されるミーナに。
そして、どれだけ申し訳ないと思っても、アデルを頼らざるをえない自分自身が、憎らしかった。