HERO
ガタンっと突然聞こえた物音で我に返る。
梓と音の方に視線を向けると、視線が重なる。
「何?」
生唾をごくりと飲み、梓は「なんだろう」とまたその方を見る。
大きな手は、服の裾をぐしゃぐしゃとしている。
その姿を見て、思わずくすりとなる。
変わらない仕草が弱腰だった自分に勇気を与えてくれる。
「怖いの?」
時間は夜の8時。
研究室の蛍光灯が妙に雰囲気を出している。
「どうせ、犬とか、猫だろ」
上擦った声で答える梓を見て、私は声をあげて笑った。
「大学に犬や猫はいないでしょ?」
伸びた髪を掻き毟るようにくしゃくしゃにしながら、梓はむすっとする。