HERO
「で、こちらは?」
その人はシンプルに施されたネイルの先を揃えて私に向け、梓の顔を覗きこんだ。
その距離があまりにも近く、私は硬直した。
「幼馴染の衣奈。研究手伝ってもらってたんだ」
知らなかった。
梓にこんな綺麗な友人がいたなんて。
「ほら衣奈、自己紹介くらいしろよ」
そう言う梓が、自分の知っている梓とは酷くかけ離れて見えた。
「あ、どうも…守田衣奈(もりた えな)です」
「よろしく。梓の彼女の吉田 朱莉(よしだ あかり)です」
差し出した途中で止まった私の手を、朱莉は半ば強引に手に取り、軽く揺らした。