HERO

「衣奈？」



「だから彼女なんて永遠に出来ないんじゃないかって思ってて。流石に私も、彼女にまではなってあげられないから」




「どうして？」



笑っている私に、朱莉は目を丸くして聞いてくる。



だからつい、思ってもいないことを。





「だって私、こんな弱虫、嫌ですから」



一瞬流れた沈黙が、すごく長かった。



梓の怒った顔が焼きつくように映る。


こんなこと、言いたかったわけではないのに。



守るどころか、傷つけてしまっている。



お願いわかって。


そう願うように梓を見ても、梓は体すら私に向けてくれない。




「へえ。梓ってそんなに弱虫だったんだね」




淀んだ空気を吹き飛ばしたのは、朱莉の豪快な笑い声だった。