HERO
「梓?」
「あずさ?」
「え?」
肩に乗せた手をすっと引く。
「それは、君の名前?」
「違うよ…違うよ何言ってんの?」
「君は誰?ですか」
「梓?え、何?どうしたの?」
「どうもしていません」
「しっかりしてよ!…ねえ、自分の名前忘れたの?私のことは?私のことはわかる?」
首を傾げ、梓は「知りません」と無愛想に返事をする。
「衣奈だよ?守田衣奈!わかるでしょ!?幼なじみのこと忘れたって言うの!?」
「申し訳ありませんがその名前は登録されてません。貴方の名前も、顔も登録されていません」
「梓!」
「僕は、梓ではありません。僕は―」
そこまで言うと、梓は電池の切れた玩具のようにピタリと動きを止めた。