HERO
けれど。
「なんで…」
ガラス越しに見える店内には人影は愚か電球ひとつ点いていない。
入口に近づき、ガラス戸の貼り紙の文字に指を添えた。
『2055年6月をもって閉店とさせていただきました…』
「二千…55年?」
とてもユニークな冗談ではあるが、目の前の光景が現実を物語る。
つい昨日まで、私はここで働いていたのに。
混乱する脳内に必死でメッセージを送っている。
これ以上混乱を招かないように。
ここは夢の中で、私は今きっとあまりにもリアルすぎる夢を見ているのだと。
緩々とその場から後退する。
ドンッと背に何かが触れ目を見開いた。
嫌な予感ほど当たるものである。
「守田衣奈、照合、完了しました」