HERO
大学から少し離れた場所にあるこの公園には、何度か来たことがある。
目の前にある湖や、それを覆うように植えられた木々。
そこを通る人にも、大きな違いは見受けられない。
少し離れた隣のベンチに座っている老人が持っている端末に目がとまる。
背面のかじられたリンゴのマークは、寧ろ記憶に新しい。
「そんなに珍しいかい?」
「え?」
きっと知らずとも熱い視線を送ってしまっていたのだ。
私に気付いたお爺さんはそれを片手に隣に来ると、よいしょと腰かけた。
「若者は馬鹿にするけどね。私たちが若い頃はこれが主流だったものだから」
「ああ、いえそんな」
若い頃。
お爺さんが言うその時は、私が元いた時代と然程距離がないのかもしれない。
「利便性に優れたものだよと新しい製品を渡されてもね。歳をとると、覚えることが億劫になるもんで」