HERO
「開発した技術で得た費用を、彼はすべて人の為に使っている。教育のため、世界の復興のため。例えば、ロボットが普及して多くの人たちが首を切られざるを得なくなった時もそうだ。彼は解雇された人たちを支援し、惜しみなくその技術を広め、また新たな仕事も与えた。それでもって彼自身の懐に入る金は、サラリーマンよりも低いときた。多くの人に慕われるに値する人間だ」
「いい子…なんですね」
「そうだね。なかなかそこまでは、大人でもできない」
端末の中で手を振る少年が、つい先ほどまで目の前にいた少年が、多くの人を救っていると聞いて驚いた。
どちらかと言えば彼を悪と認識していたからかもしれない。
しかしなぜその天才少年は、梓にそっくりなロボットを造ったのだろう。
少年と梓に、何か接点でもあるのか。
「お爺さん、瀬能梓という人を知っていますか?」
「え?あず、梓?ううん…いや、わからないな」
縋る思いで聞いた質問の答えへの期待は一瞬で消え去り、私はまたひとり放り出されたような気になった。
2012年のクリスマス以降の記憶がない私は、何も知らない。
梓があれから誰と出逢い、どんな風に暮らしてきたのか。
私がどんな風に生きてきたのか。
2012年から今日までの43年間、世界で何が起こったのか。
それを知る術さえ知らない私は、今、目の前にいるお爺さんに縋る外なかった。