HERO

「あの、付かぬことをお伺いしても…?」


「うん?」



「歴史を、教えてもらえませんか?…2012年から、今日までの。いや、私記憶が―いや、ほんの少しで構わないんです、だめ、でしょうか?」



お爺さんは目を丸くして驚いた後、「そんなに長い間ここにいたら凍ってしまうよ」と眉を八の字にして立ち上がってしまった。



「来なさい。いいところを知っているんだ」



落胆していた私が見上げた先には、目尻を下げたお爺さんが立っている。



公園から数分も歩けば、見たこともない建物が見えてくる。


その入口まで来ると、お爺さんはマフラーを外しながら早足で進みだした。



「ここなら寒さも凌げるし、口を潤すこともできる。なんてったって、43年もの歴史を話すんだからね」



広大な敷地にあるその建物は、ドーム上の形をしており、天井は黒く、外壁はミラーで覆われている。


その周囲にはこれでもかというほど多くの木々が埋められており、その枝には季節を忘れさせてしまう程青々とした葉で包まれていた。




「あの、ここは?」




そう尋ねてもお爺さんは手招きをしてどんどん先に進んで行くだけで、私もその軽やかな足取りに後れを取るまいと、必死に後を追うばかりだった。












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