Lovers
玄関の扉が閉まる音と同時に、ベッド脇に、昨日私がはずしたハヤトの腕時計を見つけて叫んだ。


「ハヤト!時計忘れて……」


叫んだけれど間に合わなかった。

その時計のせいで、昨日の夜の思い出が残ってしまった。

心だけじゃなく、この部屋にもハヤトの思い出が。


ハヤトのずっしりとした重い腕時計をつけると、ゆるすぎて……。

私は男じゃなくて女なんだと見せつける。


いつも見ていたはずなのに。

この時計を外すときに触れたハヤトの腕はとてもごつごつしていた。

そんな小さなことにドキドキしてたことなんて、ハヤトは知らない。


男に生まれたらどんなに楽だったんだろう。

ハヤトの男の部分を欲しがらない、受け入れられない身体だったなら、どんなに楽だったんだろう。


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