ハッピークライシス



「落ち着いて。なにがあった」

「・・・・・分からない、どうして、何も思い出せない。頭の中が真っ白なの。怖いわ、ねえ。あなた、誰?夫はどこへ行ったのかしら。どうして、こんなに身体が痛いの・・・!?ああ、ァあああ・・・」



恐怖のあまり、発狂したように声を上げるリサに、それ以上なにを話しかけても通じなかった。どうしたものかと、シホは室内を見渡して、近くに置いてあったガラスピッチャーを手に取り、中に入っていたレモン水を思い切りリサにぶっ掛ける。

リサはぶるぶると頭を振って、恐怖に染まる瞳でシホを見る。

―駄目か。


ふと、ドレッサーに並んでいたウィスキーボトルに目がとまる。
随分高級な酒があるものだ。シホは、それを手にとって暴れるリサの身体に跨り、手首を纏めて押さえつける。そして、ゆっくりと瓶の口を宛がいウィスキーを注いだ。


「…ゴホっ、ゲホっ」

「これも、それも、全部あなたのでしょう?グラスに、あなたの口紅がついてる。よっぽどアルコールが大好きなのね」


喉を伝うアルコールに一瞬目を大きく見開かせた後、押さえつけられていた手を振りほどき、一心不乱にウィスキーを飲み続けた。


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