ハッピークライシス

少女の背を睨むシホに、ユエは小さく笑った。


「この状況で余所見が出来るなんて、結構余裕あるな」


いつもと変わらない、茶化すような口調でユエが言った。
レヴェンの人間を殺して、人の仕事の邪魔をして、共に過ごした幼馴染のシホに銃弾を撃ち込んだ今の瞬間でも。


「どうして、あんたは"そんな"なのよ」


吐き捨てるように、言った。
がたがたになった身体では、既にそれを支えるのも限界だった。



「っ、結局……っ、あたしも、シンシアも、あんたが欲しがる、ガラクタと一緒。飽きて、いらなくなったら捨てるんだものね!!」


朦朧とする意識の中で、シホは叫んでいた。
その瞬間、均衡していた力のバランスが崩れ、ずっと押しとどめていたナイフの刃がユエの掌に一層深く食い込んでいく。



「シホ、」



ユエが、小さくシホの名前を呼んだ。
シホは目を見開く。

心が震えた。
捨てられるのはシホのはずなのに、なぜだろう。ユエの顔が酷く寂しげに映った。凍えるくらいに。


――どうして、あんたがそんな顔をするの。

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