ハッピークライシス
「さよなら、シホ」
そう、ユエが静かに呟いた。
一瞬の間を置き、乾いた銃声がシホの耳を劈いた。
けれど不思議なことに、いくら待っても、身体に銃弾を撃ち込まれる激痛が訪れることはなかった。ゆっくりと瞼を開ける。
「―――、ど、どうして。何で…、」
ユエは何も言わず、ただ涼しい顔で微笑んだ。
嘘だ、信じられない、そうシホは呟きながら、ゆっくりと頭を横に振った。
ユエの白いシャツが真っ赤に染まり、溢れだす血液が大量に滴り落ちている。
ユエは、シホではなく自分の身体を撃ち抜いたのだ。
そっと血に濡れたシホの頬を撫で、充分な距離をとったあと、手にしていた銃をシホへと投げ返した。
「"不思議な力"なんて、そんな魔法はこの世に存在しなかった」
「…何?」
「シホは、そう"シンシア"に報告すればいい」
呆然と立ち竦むシホに、ユエはゆっくりと言う。
そして――。