ハッピークライシス



「――銃を構えろ、シホ」


低い声音でユエが呟く。
反射的に、シホはユエから返された銃を構えた。その瞬間、草木を抜けて現れたシンシアと、レヴェンの構成員達。

シンシアの姿を見て、ユエはそっと目を細めた。


「青薔薇か」


シンシアが、ユエに問うた。
微笑んだまま、肯定も否定もしない。構成員達が一斉に銃を構えるのを確認して、ユエは身を翻し、一瞬にして深い闇の中を駆けだした。


「……待てッ!!!」

「大丈夫だ、青薔薇は手負いだった。この血の量からいって、そう遠くへは逃げられないはずだ」


構成員達が後を追う。
カポ(幹部)と見られる男が、ゆっくりと近づいてきた。


「青薔薇相手に、良くやった。シホ=ハーシェル。正直、フェデリコの屋敷で構成員達が殺られているのを見た時、こちらも諦めていたんだが。色々と疑って申し訳なかった。だが本当に、見事な腕だな」


そう言って、ポンとシホの肩を叩いた。


「ありがとう、ございます」

「…青薔薇の逃げそうな場所で、何か知ったことなどあるか?」


一瞬、リサ=フェデリコから聞き出した居場所が頭を過る。シホは、ゆっくりと目を閉じ、首を横に振った。



「いいえ、特に何も。大変、申し訳ございません」



カポは小さく頷いて、構成員達の後を追って暗闇へと姿を消した。

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