ハッピークライシス


「……」

「喋れないのか」


無言のまま、エメラルドの瞳が戸惑いがちに揺れる。


「話しても、良い?」


おずおずと少女が口を開く。
フィリップ=フェデリコの道具として、何年もあの地下室で過ごしていたのだ。話すことも禁じられていたのか。声は、酷く掠れていた。


「ああ、話してくれて構わない。何か話して気でも紛らわさないと、痛くて死にそうだ」


ユエはそう言って肩を竦めた。
フラスコボトルに口をつけ、ウォッカをひとくち含んで口内を濯いで窓から吐きだし、ただ痛みを誤魔化すためだけに咽喉へと流しこんだ。

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