ハッピークライシス
「ロゼ?」
少女は、以前フェデリコの誕生会に行った際にシンシアから与えられた偽名でユエを呼んだ。まるで随分昔の出来事のようだ。
思わず、ユエは小さく笑った。
「それは偽名だ。俺の名前は、ユエ。ユエ=ハネンフース」
「……"ユエ"。綺麗ななまえ、いいなぁ」
少女がゆっくりと座席から立ち上がり、ユエの正面へと座る。
小柄な体型から、10歳に満たないと思っていたが、こうして真正面から見るとどこか大人びた表情も垣間見える。
環境がそうさせたのだろうか。
「痛そう」
掌に深く刻まれた傷、そして脇腹の銃痕。
少女はその白く小さな掌でそっと布越しにユエの身体を擦る。ユエは、ただ無言でその様子を見つめていた。