ハッピークライシス
「いや、」
否定しようと、昨夜のことを思い出そうとしたものの、頭の中はまるで真っ白で何も思い出せなかった。なんなんだ、この違和感は。ユエは右手で頭を押さえながら小さく眉を寄せる。
すっかり深い思考の底に嵌ってしまった様子のユエに、シホが怪訝そうな顔をした。
「記憶がない。会場を出てから、この部屋に戻ってくるまでのこと」
「会場でワインでも飲みすぎた?確かに、年代モノで凄く美味しかったけれど」
「どうだろうな」
ミネラルウォーターをグラス一杯飲み干して、ユエはリモコンでテレビのスウィッチを入れる。
そこには、新法案について記者から質問を受けるフィリップ=フェデリコが画面一杯に映っていた。
その少し後ろ、控えめに立つ若い女。