ハッピークライシス
「…この女は誰だ」
「はあ?あんたマジで大丈夫?リサ=フェデリコ。フィリップ=フェデリコの奥さんでしょ。確か、年齢はまだ23くらいよ。フィリップとは40近く離れてる年の差婚って結構世間を賑わせたじゃない。会場にもいたでしょう」
「リサ…」
その名前を、ユエが呟いたときだった。
脳の奥深くが、ズキリと鈍く痛むのに思わず頭を押さえる。そして、一瞬、フラッシュバックするように頭に浮かぶ文字。ユエは、無意識のうちに万年筆を手に取り、手帳にその文字を書き殴った。
9桁の数字。シホが不思議そうな顔で、覗き込んだ。
「これ、何の数字?」
「わからない。なんだろうな」
「ユエ、あんたがそんな曖昧なのって珍しいわ」
ユエは黙ったまま、手帳を翳してただジッとその数字を見つめる。いくら記憶を探っても、9桁が導く意味は分からないままだった。