雨の日の追憶 〜クランベールに行ってきます 本編ロイド視点〜
 ユイがいう事を聞いてくれたら、お仕置きの必要もなくなる。
 これほど間近でユイの顔を見る事は、二度とないのかもしれない。
 そしてこの温もりに、心安らぐ事も。

 黙ってロイドを見つめていたユイの瞳に、涙が溢れて頬を伝った。

 こんな顔を見たくはなかった。足元が揺らぎそうなほどの絶望感を覚える。

 暴れて罵られるよりも、静かに泣かれる方が辛い。

 これ以上触れるべきではない。すぐにでもユイを解放するべきだ。
 頭では分かっていても、この温もりを少しでも長く感じていたくて、腕の力を緩めるのが精一杯だった。


「泣くほどイヤなのか?」


 ロイドは静かに問いかけながら、親指の腹でユイの頬をそっと拭う。
 ユイは嗚咽を飲み込んで、短く答えた。


「……違う。なんでもない……」
「なんでもないのに泣くのか。やはり変わった奴だな、おまえ」


 そう言いながらロイドは、ユイの頭を撫でた。

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