雨の日の追憶 〜クランベールに行ってきます 本編ロイド視点〜
「そうか」


 嬉しさのあまりロイドは、涙に濡れたユイのまぶたに軽く口づけた。

 そんな事をすれば、再びマイナスに転落するかもしれない。
 心の奥で鳴り続ける警鐘を無視して、ロイドはメガネを外した。

 ユイが咄嗟に閉じた目を、ゆっくりと開いた。

 脳の指令も、もはや行動を制御できない。

 ロイドはユイにゆっくりと顔を近づけた。ユイは抵抗するでもなく、ぼんやりとロイドを見つめる。

 唇が触れ合いそうになる間際、わずかばかり残っていた理性が、ユイに尋ねた。


「逃げないのか?」


 ロイドを見つめたまま、ユイはキッパリと答える。


「逃げても無駄だから」
「だったら、目を閉じろ」


 ユイは素直に目を閉じた。
 承諾の意を受けて、ロイドは行動を再開した。

 もう二度と触れる事が叶わないと諦めていただけに、ユイの唇はより一層甘さを増していた。

 頭の芯が痺れるような、ユイの唇の甘美な魔力に、ロイドは完全に虜となった。



(第1話 完)

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