雨の日の追憶 〜クランベールに行ってきます 本編ロイド視点〜

 ユイは驚いたように目を丸くして、額を押さえながら訂正した。

「ウソよ。文字の勉強が忙しいからって、本当はそう言ったの。あなたがこんなにうろたえるなんて珍しいわね」


 やはり、というか、ユイは全く気付いていないようだ。
 ロイドは少しユイを睨み、背を向けて歩き始めた。


「行くぞ。歩きながら話す」


 後を追ってきたユイが隣に並ぶと、ロイドは話し始めた。

 ユイとジレット嬢が頻繁に会っていると、殿下の結婚が近いのではないかと勘繰られかねない。
 そんな噂が立てば、今は沈静化している王位継承問題が表面化してくるだろう。

 ユイは十代のお二人に結婚なんて早いと言うが、王族や貴族は早婚だ。
 実際に陛下も、二十歳でご結婚なさった。

 随分前からジレット嬢が殿下の婚約者に内定している事は、貴族たちの間では周知の事実だ。
 充分に、退屈している貴族たちの、噂の種になる。

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