雨の日の追憶 〜クランベールに行ってきます 本編ロイド視点〜
(まぁ、あいつと結婚したら、退屈はしないだろうけどな)
おもしろい事を除けば、ことごとく好みから外れている女だが、ひとつだけロイドの目に焼き付いて消えないものがある。
マイクロマシンを飲ませるためにユイを押さえ込んだ時、間近で見つめた彼女の唇が脳裏に焼き付いて離れないのだ。
体つきも顔も仕草も、色気のかけらもないのに、唇だけ妙になまめかしい。
殿下の唇をまじまじと見つめた事はないが、あれだけそっくりだから殿下もそうだっただろうか。
それは記憶にない。
それとも女のユイ特有のものだろうか。
化粧もしていないのに、ほんのり薄紅色に色づき、ふっくらとやわらかそうで、小さく引き締まっている。
「甘そうだな……」
今まであんな唇の女に出会った事はない。
あの唇を味わってみたいと思った。
ロイドが吐き出したマイクロマシンを飲ませた時、口移しの方がいいと言っていた。
キスをしたら、ユイはどんな予想外の反応をするんだろう。
それは純粋に、単なる子供じみた好奇心だった。