As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
「…おふくろさんの葬儀が終わってからさ…、あいつ、突然俺んち来てボロボロに泣いて……。堰を切ったかのように一気に話したんだ。後にも先にも、アイツの涙をみたのは…それが最後だった。こっちに帰ってきたのは親父さんへの当てつけだったり、自分もまたお袋さんの病気に気づけなかったことへの…後ろめたさがあったからかもしれない。とにかく……、野球を続けようなんて思えなかったのもあるんじゃないかな。……あとは…、さっき言ったみたいにさ、プライドが邪魔してる。こうなってくると、気持ちの問題だよな…。……って、げっ…。なんで柚が泣くんだよ。」



「…だって……、そんなの知らなかったから……。」



アイツ……、そんなんでなんで笑ってられるのよ。


「お前が泣いたって仕方ないだろ?」



「……そうだけど!」


「……バカだなあ…、ホント。話さなきゃよかったか?」



「そんなことない。」




聞かなかったら…、


一生知らなかったかもしれない。



怪我で諦めたわけじゃなかった。


怪我だけで諦めるわけなかった。



ねえ、



私にはもうどうすることもできないけれど……



アンタのことを知ってしまった私は……



どうしたらいい?



このやりきれない思いを、何にぶつけたらいいの?




「そういう訳で…、やっぱり甲子園は無理かもな。…で?するの、しないの?」



「……何を?」



「だから…、デート。少しは俺に充電させてくれ。癒しが必要だろ、たまには。」



「デートは…、するよ。でも……」




「……。『でも』?」



「…奴の心を解放するのが先。」




ごめん、佳明……。



けど、放ってはおけない。


大切な友人として……



見過ごせないよ。



だって、毎日見ていた。



野球部が白球を必死に追う姿を……



ずっと見ていた。



いつも……



独りで。




「……。話した俺がバカだったか。でも、まあ……柚のそういうところ、割と好き。」


「…割と?」



「いや、結構。」


「けっこう?」



「…いや、かなり。」



「……うん、…ありがと。」



気づけば私達は廊下の端にある踊り場へと辿り着き……



行き場を無くしていた。



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