As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
しばらくすると……
ビチャビチャと水溜まりを蹴りながら、激しい雨の中を一人傘をささずに走る……男の姿。
「…中道くん。」
結が名前を呼ぶ。
…げ。
『中道…?』
私が心の中で呟いたその時ー……
ヤツは、ぐるんとこちらに振り返った。
「「「…………。」」」
まさに、三竦み状態………。
一番に口を開いたのは……
「…上原。」
中道の方だった。
…てか…、
どっちも【上原】なんだけど。
「…てか、上原柚。お前さ……」
言葉を続けたヤツの目線が……
私の目線と重なっていた。
私は黙って次の言葉を待つ。
「…あの後、どうだった?」
今この状況で……
それ?!
だいぶずぶ濡れなんですけど……。
「……言わないよ。……中道だけには!」
雨音に負けないように、中道のその目力に負けないように……
私は声を、張り上げた。
「……。何、なんの話?」
ピンクの傘に隠れて…、
結がその時どんな顔をしていたかはわからない。
けれど……
その口調は普段ふわふわしてる声なんかじゃなくて……、
ハッキリと、歯切れの良い口調。
「…何でもないよ。クラスでの話…。」
不意に出た嘘が、思いの他後ろめたくて…、
私は、水色の傘でその視界を遮った。
「…………。」
中道は、何も言わなくて……
重苦しい空気が、三人の間を流れる。
「…中道。あんた傘ないの?」
その空気を一掃したくて……
わざとらしく、話題を変えた。
「……柚。こっちに入って。」
「…え?」
結の真っ直ぐな瞳が……
私を見ていた。
「…さすがにピンクは有り得ないから。」
「…………。」
これ以上、言葉を待たずとも……
結が言わんとしていることが分かる。
「……ん!」
私は自分の傘を中道に押し付けると……
すぐさま結の傘の下に入りこんだ。
「…別にへーきだから。」
中道はにこりともせずに……
私に傘を戻そうとする。
「…勘違いしないでよ。結の気持ちだから…、貸してあげる。」
「………。」