As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
家に着までの数分間……





私達は、野球の話をした。



あの選手はああだとか、


あの試合はどうだったとか………





てんで色気などなかったけれど、それはそれで……



楽しかった。




早く着いてしまうんじゃないかと思ったから、いつもは駆け抜けていく下り坂も……



ゆっくり、ゆっくりと、踏み締めて歩く。




野球の話をする時…



中道は、ひとまわり幼く見えてしまうくらい、


夢中で……

必死で……



笑顔を絶やさなかった。




これが私に向けられた笑顔だったら……


なんて邪な思いが過ぎる。



…が、惑わされることはない。


ちゃんとブレーキをかけることができる。



私には佳明がいて……
中道には、結がいる。



ちゃんとそこに現実があるから……




間違うことはない。









「…あ。もう着いちゃった。早いなあ…。」



中道が「ちぇっ」っと残念そうにぼやくから……



妙に可愛く見えた。




「…今度は結に話相手してもらいな~、いっぱい勉強したんだから。」



「……ん。」




家の中は……



真っ暗だった。



どうやら誰も……


帰ってきてはいないみたい。




「…結、まだみたいだけど……家に上がって待ってる?可愛かったよ、浴衣。」



「……ここに鏡がいるからそりゃあよくわかる。」


……言ってくれるじゃない。



「…けど、いいや。今日は帰るよ。」



「そう?別に私は構わないけど…。」



「……家に二人きり。それってヤバくね?」



「………。な、なるほど…。そりゃそうか。」


「……花火…、見たかったなあ。」



「……。見れなかったの?グラウンドから。」



「…見てたよ、ヤロー共と。監督キレてたけどな。」



「あははっ、目に浮かぶなあ。」




「…そうじゃなくてさ……、そうじゃなくて…いつか誰かさんと空を見上げただろ?そんな風に……また、一緒に見たかった。」






……それって……




私と……?




不意に………




視線が絡まる。





なんて言ったらいい?


中道のことだから……



どうせまた冗談じゃないの?


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