As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
「…そそっかしいっつーか、なんつーか…、動揺し過ぎ?…ハイ、消しゴム。」
「………!」
目の前に……
中道の顔。
その手はしっかりと私の手首を掴んでいて……
逃さない。
「……ありがとう。」
不意に目を逸らして、柄にもない言葉をくちばしる。
…が、消しゴムが渡されることはなかった。
それどころか………
「……え……?」
顔が近づく。
「…お前っ……」
佳明が叫ぶのとほとんど同時に……
バチンっと鈍い音をたてて…
私が中道の頬を叩いた。
「……何すんのよ!」
中道の手元から……
消しゴムが転げ落ちる。
佳明が私の手を引いて……
自分の背後へと回らせた。
「…柚。」
「………!」
また…名前で…!
「さっきの話、おまえ聞いてた?」
「………!」
顔が……
更に熱くなっていく。
「あーあ、顔真っ赤じゃん。かーわいー。」
「…な…なにそれ…」
佳明の前で、どうしてこんなこと……。
「…やっぱ聞いてたんだ。本当、わかりやす。」
「何の話?」
佳明の声に…凄みがかかっている。
怒ってる……?
「…さあ…。柚から聞けば?」
「………。」
「お前ら付き合ってんだからさー…、隠し事なしじゃん?」
こんな中道を……
私は知らない。
他人行儀で、冷たくて、蔑むような瞳……。
「つーか、いつからお前柚を名前で呼んでんの。」
「…だいぶ前から。」
「………。一度も聞いたことなかったのに。柚の前でだけ…?」
佳明が私に振り返る。
「…知らない。呼び名まで気にしたことないし……。」
「……ふーん……。」
「なあ、言っておくけど…コイツをからかうのが俺の日常。だから…、こんなこと、普通なんだよ。」
「……は?」
「…な。だから別にどうってこと………」
中道……。
私をからかっただけとアンタは言う。
でも…、
でもね、わざわざ佳明に誤解されるような…
人を傷つけるようなやり方はあんたはしないでしょう?