As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
「ねえ。母さんはどうやって私達を見分けるの?」
鏡越しの母が、小首を傾げ……
私達を、交互に見つめた。
「考えたこともなかった。だって生まれた時から見てるもん、なんとなくわかっちゃうもんよ?」
「…『なんとなく』…ね。」
そういう抽象的な答えじゃなくてさ…。
「あえて言うなら?」
「…う~ん。黙ってたらわからないけど、結はゆっくり話すけど柚はせわしい感じかな。」
「………ふ~ん。」
母はそう話しながらも…手を動かしたまま。
「…よし、できたっ。」
上原家は…
美容室を営んでいる。
店長は父。
夫婦揃って美容師である。
だから私達は昔からいい練習台でもあり……
こうして時間があるときには、朝髪をいじってくれる。
「…今日は柚が作ってくれたんだっけ。」
「ん。そう。」
母が忙しい日には…
私達が代わってご飯を作る。
「…じゃあもう食べちゃおっか。結、父さん起こしてきて。」
「…はーい。」
結は椅子からピョンと飛び降りると……
さっさと部屋へと引っ込んで行った。
「…珍しいね。あなたたち喧嘩でもした?」
「…え?」
「結さっき一言も話さなかったでしょ。」
「……。そういえば…。」
今日は、私を起こしにこなかった。
念の為アラーム掛けているからちゃんと起きれたけど…
……あれ?
なんか怒るようなことした?
しばらくして、キッチンに結が顔を出した。
「…今日早めに行くからご飯いらない。」
「……え。結の分作っちゃったよ。」
「柚が食べて。…じゃ。」
…あれれ……?
……さて、
何かあったっけかな……
どうにも思い出すことが出来ず……
仕方なく、私はひとりでふたり分のおかずをたいらげた。
玄関を出ると…
空はどんより曇り空。
私は鼻をならして……
その匂いを確認する。
…うん、
雨…、降るかも…。
二つ並んだ水色傘と…
ピンクの傘を…
そっと手にとった。