As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
「…ではでは、柚の活躍と、これからの前途を祝して………」
「「「かんぱーいっ!!」」」
カチンとグラスを合わせて、
私はジンジャーエールを、
結はグレープフルーツジュースを、
お母さんは赤ワインを…
ぐびっとひと口。
「いやー、もう格別だね!祝いの席のお酒は。」
なんと、まあ…
「…大袈裟だなあ…。」
「でもでも、今まででいっちばん上手だったし、間違えなかった!それに…すごかったし、合唱。」
そう言われると……
うん、照れちゃう。
「……ありがと。結のお陰かな。」
「……え、そんな大袈裟な。ただ隣りで弾くの聴いてたくらいだよ?それよか、うちのクラスの曲までマスターして練習付き合ってくれたこっちの方こそありがとうだよ。」
「……ちゃんと聴こえた、結の声。」
「ウソ、外してなかった?」
「ううん。今までで一番上手だった!声も綺麗だし。」
「……柚……、もう、大好きッ!!」
無邪気に抱き着いてくる結は、頬を赤らめて本当にかわいい。
…うん、お母さんに負けないくらい真っ赤。
「…てか……、いつの間に楽譜にメッセージ書いたの?本番直前に見つけてさ、かなり癒されたっていうか…緊張がとかれたっていうか…。」
「……あれ?もう見たの?」
結は小首を傾げる。
「それなら今朝こっそり書いたけど…、え?持ち歩いてた?帰ってきたら見るかなぁって思ってはいたけど…。」
「あの楽譜を見て、今日弾いたんだ。」
「……学校用があるって言わなかった?」
「ん。なのに直前に無くなっちゃってさあ……。」
「ええ?!初耳だよ!…で、結局どうしたの?」
「結局見つからなくてさ、家用の楽譜を使ったの。」
「…備えあれば憂いなし。よかったねえ、持って行って。」
「結果オーライかな。結のあのメッセージが私を奮い立たせた。そうなるようにってすごい集中できたんだ。」
「…そっかあ…、なら、良かった!」
心からの笑顔に……
私は少しだけ、後ろめたくなる。
「……結……。」
「ん~?」
「あの楽譜…、持ち歩いてたわけじゃないの。」
「へ?」
「見つからなくて、テンパって…。家に取りに行こうとした。」
「………うん?」