As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
「あれ?柚仲いいのに知らないの?」



「……え。」



「中道のお兄さんって甲子園のヒーローだったのに。」



「…嘘、誰…?」



「…三年くらい前だったかなあ…、Y高校のピッチャーで中道亘(こう)っていたの分かる?」



…分かるも何も……、



甲子園のヒーローだったじゃん!



「…プロに行かないでK大学に行ったんだよね。今でもたまにテレビで注目されてんじゃん。」



「そうそう。その人が…彼のお兄さんらしいよ。」



「うそっ。マジで…?」



端正な顔立ちから投げられる155キロのストレート。


多彩な変化球……。


例え追い込まれようが、顔色ひとつ変えない勝負師。



私はもちろん……


全国の甲子園ファンを熱狂させたあの怪物…、いや、もとい!


あの「アイドル」が中道の実兄……。




「…で、中道自身も野球しててさ。所属してたシニアチームを全国優勝に導いたって話。」



「……。すごいじゃん、中道。てかここの野球チームってそんなに強かったんだ?」



「…違っう!中道は東京にいたんだよ。将来有望視されてたピッチャーだったらしいけど……、怪我をきっかけに辞めたんだって。」



「…そんな大怪我だったの?」



「さあ…。そこまでは。」



「…そこまでリサーチ済みなら、何でもっと詳しいとこまで知り尽くさないかな。」



「………。何で柚がプリプリしてんのよ。」



「え!あ……。いや、別に……。」




だって……


夢なんて考えたこともなかったって……。




「まあ、中道はアンタだから仲良くできるのかもね~。」



「は?誰が仲良くなんて…。」



「…今日仲良く遅れて教室に入ってきたそうじゃん。」



「…げ、何故それを…。」



「アンタのクラスの子が騒いでた。女子の間じゃ有名な話だけど?実はアンタらデキんじゃないかって。有り得ないから笑いとばしたけど。」


「さえちん…。色んな意味でショックなんだけど。」



「まあ、里中とどっちにするか精々悩みな~。」



「……ははっ…。お気遣いどうも。」








ちっちゃくなっていくアイツの背中を見送りながら……



私は、考えていた。





どんな気持ちで……



私を励ましてくれたのだろうと。



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