As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
一瞬、足を止めたのは……




気のせいなんかじゃない。




なのに、彼女は……




返事をすることは……



なかった。





サチちゃんを呼んだ女子生徒は……




じっと私を睨みつける。




「……なに……、これ……。」





あの女子生徒の瞳の奥に隠されているものを……、


私は知っている。




軽蔑、
嫉妬………。




つい、この前まで……



私も、こんな風な視線を浴びていたから。



けれどこれは……




「私」に向けられたものではない。




サチちゃんは、私を「結」と呼んでいた。





「……結………?」




笑っていた結。



学園祭を楽しみにしていた結。




「……何なのよ、これ……。」




足元から……



何かが崩れていく気がした。






そう……、




私は思い巡らせていたのだ。




昨日……、凪から聞いた、




…信じたくない、
信じがたい………噂を。








私はそのまま……、



自分のクラスにむかって、歩みを進めていく。




道中……。



何人か、結のクラスメイトとすれ違った。




……が、




誰一人と……




声を掛ける者は、いなかった。




男子だけならまだしも……




そう、



仲良くしていたはずの……



女子も。




まるで私は空気みたいで……



この姿が、誰にも見えていないのではないかと危惧してしまう。





ねえ……、結。



いつもあなたは……
堂々としているように、私には見えていたんだよ?


羨ましかったんだよ?



なのに…、

なぜ?



いつから……?




こんなにも足どりは重たくて、進む一歩が怖くて……



あなたは、毎日……



どうやって歩いていたと言うの………?







看板を廊下の隅に置き、
私は……


いつの間にか、結の教室へと……


近づいていた。





じろじろと私を見る高貴な視線と……



冷たい視線。



果してそれは、



私…、


柚に向けられたものなのか。
結に向けられたものなのか……。



それならば前者であって欲しいとさえ…


願う。





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