As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
やがて……



参拝客の列のすぐ脇で……


周囲を見渡す両親の姿が…見えてきた。




私は必死に走って……


母の胸に飛び込む。



「……バカ。」



母が発したのはたったひと言だったけど。


幼い私の胸にずしっと響いた。



そんな状況を……



彼女はどう見ていたのかは、わからない。




「金魚すくいやりたいっ!」



突拍子のない柚の提案に……



何故か父は、笑っていた。



「…よし、じゃあ行こうか。」



父は柚と手を繋ぎ、それから反対側の手を…


私の目の前に、差し出した。



ぎゅっとその手を握って。



私達は一緒に歩いた。






念願の金魚すくい。



一匹もとれないまま、ポイが破けた私をよそに……



柚はひょいっと器用に手をスライドさせて……



2匹目をゲット。



「これは結の分ね。」



そう言って……、


私のお椀に、金魚を一匹入れた。



「次はお父さんとお母さんの分!」




意気込んで挑戦したけれど……



3匹目をとった所で、ポイはとうとう破けた。



柚は悔しそうだったけど……




店のおじさんが、一匹もとれなかった私におまけしてくれたことで……


金魚は4匹になった。




「……柚、すごいね!」


私はすっかり興奮して、柚にそう告げると……



顔を真っ赤にして、照れ臭さそうに……



にっこりと笑った。











…………あの日から……









私は、いつもいつでも……



柚の後ろをついて歩いた。




柚がピアノを習いはじめれば……、



私も、後から習うことにした。



柚の持っているもの。


それが何でも羨ましくて……、自分も色違いで買ったりもした。



中学校に上がり……



柚はすぐ陸上部に入部した。



昔からすばしっこかった彼女には……


ピッタリの競技。




文化部に入ろうと思っていた私だったけど……、



仮入部で、生き生きと走る柚の姿を見てすぐに……



感化された。




次の日には……



陸上部への入部を決めた。





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