As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
中道くんには……
仲たがいしたお父さんがいて、
今も……
離れて暮らしている。
甲子園で活躍したお兄さんは……
世間の注目を浴び、有名大学に在学中…。
彼はおばあさんと住んでいるって聞いたけど……
家族の話は、聞いたこともない。
そうだ……、これだって、いつか里中くんから聞いた話。
彼には……
近くに、自分をわかってくれる人が…いないんだ。
それはきっと。おばあさんたった一人だけ……。
きっと心配かけないように、いつもいつも……
気を遣っている。
「中道くん。」
教室へと向かう彼の背中に……、
私は、呼び掛ける。
「…ん?」
「…私にも、あなたにも……、柚がいるじゃない。」
「……え?」
「それってさ…、私もだけど、中道くんだってきっと……最強になれるよ!」
「………。」
私の余りの勢いに……
彼はただただ驚いていたみたいだけど……
「………柚はまだ…俺のもんじゃないっつーの!」
顔を真っ赤にして。
見たこともないような……
最高の笑顔を見せたんだ……。
幸せそうな……笑顔。
ずっと……手に入れたかったもの。
皮肉だね……。
私じゃない、
ましてや双子の片割れを想って…
そんな顔を見せるなんて。