As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
「すみません、隣り…いいですか。」
「………え…、あ…ハイ…。」
仲間達の戦いに、歓声を上げるさなか……。
誰かが、私にそう…声を掛けてきた。
まばらに人が並ぶ観戦席……。
空いているスペースなど、沢山あるのに……?
若干疑問に感じながらも、横目で…、その声の主にちらりと目をやると……。
「……………。」
……あれ。
この人……
どこかで…?
「………名門校だね。」
「……え、あ……。」
「背中に書いてあるよ。」
いつか……
こんな会話をした時が…あった。
「女子100メートル。決勝…、惜しかった。」
「あ……、ハイ。」
くるりとこちらに顔を向けたその人は……
優しい瞳で、私を見た。
「あ!」
この人………!
「…君はどうやら…乗り越えることができたんだね。」
「………!!」
やっぱり……!
この人は…、
去年新幹線で偶然会った…あのおじさん?
『…絶望や試練を乗り越えてこそ…強くなれるんじゃないか?』
あの時……、絶望の淵に立たされた私に。
ほんの些細な…希望を、力を、与えてくれた人……。
「あれからどうしただろうと思っていたら…、県大会で君を見つけてね。…見違えるようだった。走っている時の君はあんなに生き生きとしているんだな。今日の走りも…良かった。」
「……まだまだです。」
「悔いがあるのかい?」
「ハイ。私は…まだまだ強くなれると、そう信じてますから。」
「なら……、きっとそうなんだろうな。また来年の楽しみが…できたようだ。」
おじさんは……にっこりと微笑んだ。
「……楽しみにしてて下さい。」
私は……、また前を向き直し、自分に言い聞かせるかのようにして……
そう告げた。
それは……、
感謝の言葉に代わって、もっともっと気持ちをこめた……誓いの言葉。
あの時のように…
おじさんはただ黙っていたけれど。
偶然のこの出会いに……
私は心から感謝したい。