As Time Goes By ~僕等のかえりみち~






「ごめん、待たせて。」




そして俺は……。



再び、柚と向き合う。




例えマウンドをおりたって。



君と向き合う時は……いつだって、投げかける言葉、その一つ一つが…勝負になる。











「試合…、かっこよかったよ。」



……。おっと、イキナリの先制ホームラン?



「…あー…、だいぶ鈍ったからポカスカ打たれたけどな。」



「けど得点は許さなかった。さすがじゃん。」



「……誉めすぎ。何も出ねーぞ。」



「アハハ、残念。」





こうやって…笑い合っていられるのは……



あと何分?



「…私もね、佳明に話があったんだ。」



今は少し……


柚の真っ直ぐなその眼差しが…怖い。




いつ、別れの言葉を言われるのか…身構えてしまう。





「ありがとう、色々…。」




「………。」



「結局佳明には頼りきっちゃってたよね。」




『最後まで』…と、そう言いたいんだろ?




「…や、友達としてでも一緒に居て楽しかったし…頼られた感は全くなかったけどな?」



「そうなの?」



「うん。」



「そっか。」



「………?」




「……ありがとね。」



「………。こっちこそ……。」









もっと……言う言葉があるはずなのに…



肝心な所で出やしねー……。





「有名大学に推薦入学か…。凄いなぁ……。」



「……。お前は頂点とったくせに…そーゆーの全部断ったんだから、ある意味すごい。」



「ありがとう。」


「や。誉めてないし。」






柚はかつてからの希望通り…。



早々に、美容師専門学校に進学を決め……。


陸上関係者はもちろん、彼女の周囲はそれを惜しんだ。




まあ、柚らしい潔い決断。




俺には野球しかないから…到底真似できない。





彼女のそういう所が……





好きだった。





けど……、



それもここまで。





ゲームセットの時間が……



近づいている。





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