As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
練習試合が行われているその中に……
私は足を…踏み入れた。
そこには……佳明はいない。
いるのは……中道。
佳明が傷つくとわかっていても…止められなかった。
一目でも……
君が頑張るその姿を見れたなら。
私はまた……
立ち上がれるんじゃないか、と……。そう思って。
観戦席にはまばらに人がいて……
大学野球のファンやら、選手の追っかけをしている女性の姿が目立つ。
「………。」
かえって一人でいる方が……
危険な気がした。
私は女性の小団体のピッタリ後ろに並んで……。
盗み見るようにして…彼を探す。
「ほんとに……いた。」
中道はセンター。
いつの間に、外野手になっていたのか……。
けれどその佇まいは全く変わってなくて…。
たった一目見て…わかってしまった。
「何そんなにこそこそしてるのよ。あんた…誰のファン?」
すぐ前にいたおばちゃんが、私の存在に気づいて……
声をかけてきた。
「……中道くんです。」
「…ああ!プロの中道の弟くん!イケメンだもんねぇ…。」
「……。顔じゃなくて、彼のプレーが…好きなんです。」
一瞬……
『好き』と言った自分の言葉に……硬直する。
「あら、真っ赤になっちゃって。よっぽど好きなんだね。後で…サイン貰ってあげようか?」
「イエ、いいです。もう帰りますので…。」
私はすっくと立ち上がり……
「あ…、ちょっと…」
おばちゃんが呼び止める声を無視して。
球場を……
後にした。