As Time Goes By ~僕等のかえりみち~





練習試合が行われているその中に……





私は足を…踏み入れた。








そこには……佳明はいない。





いるのは……中道。






佳明が傷つくとわかっていても…止められなかった。




一目でも……



君が頑張るその姿を見れたなら。





私はまた……



立ち上がれるんじゃないか、と……。そう思って。







観戦席にはまばらに人がいて……


大学野球のファンやら、選手の追っかけをしている女性の姿が目立つ。





「………。」




かえって一人でいる方が……


危険な気がした。






私は女性の小団体のピッタリ後ろに並んで……。




盗み見るようにして…彼を探す。









「ほんとに……いた。」




中道はセンター。


いつの間に、外野手になっていたのか……。





けれどその佇まいは全く変わってなくて…。


たった一目見て…わかってしまった。






「何そんなにこそこそしてるのよ。あんた…誰のファン?」



すぐ前にいたおばちゃんが、私の存在に気づいて……



声をかけてきた。




「……中道くんです。」



「…ああ!プロの中道の弟くん!イケメンだもんねぇ…。」



「……。顔じゃなくて、彼のプレーが…好きなんです。」





一瞬……


『好き』と言った自分の言葉に……硬直する。




「あら、真っ赤になっちゃって。よっぽど好きなんだね。後で…サイン貰ってあげようか?」




「イエ、いいです。もう帰りますので…。」






私はすっくと立ち上がり……




「あ…、ちょっと…」





おばちゃんが呼び止める声を無視して。





球場を……




後にした。









< 632 / 739 >

この作品をシェア

pagetop