As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
そのまま隣りの自分の部屋に戻ると……
ブックエンドの一番端に置かれた【ソレ】を持って、再び結の元を訪れた。
「……何これ。」
「何って…、プロ野球の選手図鑑?」
「………。」
「…最新版です。」
「…へー……。」
「…何さ…、なんか問題でも?」
「……柚らし過ぎて、びっくりしてるだけ。」
「…悪かったね。」
「柚がフッション誌とかを見るその日は来るかな…。そんなんだからさあ~……」
「はいはい、モテないって言いたいんでしょ?」
…別にいいもん。
こんな野球バカな私の…ありのままを受け止めてくれる人さえいれば…ね。
…うん、いないか。
「……全く、も~……。…けど、今はそれがありがたいけどね。じゃあ、先生。よろしくお願いします!」
「…そうこなくっちゃ!」
そうして、その夜から……
結への特訓がスタートした。
結は至って真剣で……
その思いの強さに、少なからず私は焦っていた。
元々、努力家ではある。
それでも…
これまで沢山の恋をしてきた結が……
躍起となるその理由。
……本気なのだ……。
私達は、夜になるとプロ野球中継を見ては……
ああだこうだと語り合った。
プロ野球選手図鑑においては……
すっかり彼女のバイブルへと化していて……
その、驚くほどの変化に……
複雑な心境を抱く。
私達は、好きなものも違う。
互いの趣味に、干渉しない。
ただひとつ、美容師への夢が唯一の共通点。
夜にこうして語り合うほどの時間なんて……
ここ数年、なかったはずだった。
それはそれはとても嬉しくて…
そして、
ちょっぴり悲しかった。
理由なんてない。
わからないけど……
さみしかったんだ。