As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
その日のうちに……
私は岩手を後にした。
帰りは新幹線。
駅で煎餅とじゃじゃ麺を買って……
それから、自由席へと乗り込んだ。
「すみません、隣り…いいですか?」
中年男性に声を掛ける。
「はい、どうぞ。」
男性は座席に置いた自分の荷物を、慌てて荷台に置き直した。
「すみません。」
私はそこに腰を降ろす。
カタン…
カタタン……
景色が急ぐようにして流れ去ってゆく。
「…陸上部の方ですか?」
突然、隣りの男性が声を掛けてきた。
「…え…、あ、ハイ。」
「名門校だね。」
「……?」
なんで…知ってるの?
「…ジャージの背中に書かれているでしょう?」
「ああ…、そうですよね。」
そうだ、ウチの陸上部のジャージに…
でかでかと書かれていたな。
「私もね、若い頃陸上部だったんだ。」
「…そうなんですか。」
「…だから、つい大会となると足を運びたくなる。君は…何の競技に出たんだ?」
「……私は…出れませんでした。仲間の応援です。」
「そうか…。私の息子と同じだな。」
「………!」
「一番上は全国大会まで出ていたが…、今高校2年の弟の方はどうも伸び悩んでいて。」
「………。」
「君は偉いな。」
「……。え?」
「息子は出ないから見る必要もないって来なかった。誘ったんだけどな。」
「…そうなんですか…。」
「だから強くなれないんだ。どうしたら強くなれるとか…考えたこともないんだろうな。」
「…けど…、見てもきっと切ないだけです。自分にできないことを目の当たりにする程…怖いものはないんじゃないでしょうか。」
「………。」
「ただ、辛いだけですよ。」
「………。」
おじさんは……
何も言い返さなかった。
「…そうか…。」
そうポツリと呟いて……、
窓の外に目をやった。
しばらくそうやって……
刻々と時間はただ過ぎていった。
「……そこに…得るものは何もなかったと?」
突然…、おじさんが口火を切った。
「………?」
「…絶望や試練を乗り越えてこそ…強くなれるんじゃないか?」
「………。」
この人……
何が言いたいの?