As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
「…何も知らない奴が勝者に…、成功者になるのだとしたら、報われないな。」
「…そんなこと…ないですよ。」
「…天才だけが、才能だけが物を言うって世の中なら…、なんて不条理なのだろうな。」
「………。」
「…ちゃんと自分の弱さに気づいていけたら…、もっと周りが見えるだろうに…。」
おじさんはきっと、息子さんへの想いを口にしたのだろうけれど…、
まるで私がそう言われている気がした。
自分の弱さ……?
「まあ、君はウチのとは違うだろう。悔しさを知ってるのだから……。」
……?
もしかして……。
車内アナウンスが流れ……
おじさんは急に、立ち上がった。
「次で降りるんだ。」
「………。」
「……君は…泣いたことを後悔しているのかな。」
「………!」
やっぱり。
この人は……
会場で私を見たんだ。
「…来年を…、楽しみにしているよ。」
おじさんは一瞥すると、荷台から荷物を降ろして……
振り返ることなく、行ってしまった。
「………あ。」
けれどそこは私も降りなければならない駅。
「…ヤバ。」
急いで荷物をまとめると……
人の波に揉まれながら、私は無事駅に降り立った。
…に、しても……
息子が出るわけでもない大会を、あの人はどんな気持ちで見ていたのだろう。
わざわざ新幹線にまで乗って、遠方に出向くなんて……。
何故か、胸がチクリと傷んだ。
辺りを見渡すけれど……
おじさんらしき人は、いなかった。
「…来年……か。」
私は小さく呟く。
……ちゃんと競技を見ればよかった。
何をそんなに恐れていたの?
自分が勝てないことを知っていたから…?
負け犬だって認めたくなかったから…?
「……また…、どこかで会えるかな…。」
もし、
もしもいつかまた……
あのおじさんに会うことがあるのなら、その時私はどうしているのだろう。
泣いてる?
笑ってる?
その後者であれば…
どれ程嬉しいことだろう。